子どもが「取り掛かりが遅い」「やればできるのに進みがゆっくり」「1ヶ月経つと忘れてしまう」。
こうした悩みは、やる気や性格ではなく、ワーキングメモリ(WM)と実行機能の特徴で説明できることが多いです。特に新年度やテスト前によく表れます。ここでは、教室でよく見られるパターンと改善の方向性を整理します。
【1 取り掛かりが遅くなる理由】
WMは「やることを頭に置いたまま行動に移す力」。ここが弱い子は、勉強を始める前の“準備段階”ですでに認知負荷が限界に達します。
よくある状態は次の通りです。
・やり方を覚えておけず、最初に戻りたくなる
・作業の順番が曖昧で迷う
・必要な情報を一時的に保持できない
・開始そのものが重く、気持ちが乗らない
これは怠慢ではなく「脳の仕組み側の問題」です。
【2 処理速度も遅く見えてしまう理由】
WMが弱いと同時に保持できる情報が少なくなるため、作業中に何度も「確認→戻る→思い出す」という再処理が発生します。
これが積み重なって、他の子より進みがゆっくりに見えるだけです。
頭の回転が遅いわけではなく、回数が増えているだけという点が非常に重要です。
【3 表に出やすいサイン】
・始まるまでに時間がかかる
・途中で抜け落ちが多い
・単純ミスが続く
・宿題が終わるのに妙に時間がかかる
・授業では分かっているのにテストで点にならない
こうしたサインが複数見えると、段取り(実行機能)・WM・処理速度の三つが弱めに働いている可能性が高いです。
【4 改善の順番】
改善には順番があります。順番を間違えると逆効果になります。
① 実行機能(段取り)を外部化
今日やること、順番、終わりの線を明確にし、迷わせない設計にする。
② WM対策
手順を見える化し、口頭説明を減らす。
作業は短いステップに区切り、保持量を最小限にする。
③ 処理速度の調整
AI教材などで負荷を細かく管理し、速度より正確さを優先する。
「速さ」は、段取りとWMが整ってから自然に伸びます。
避けたいのは、最初から量を増やす・説明が多すぎる・同時に複数タスクを求めること。
WMがすぐパンクし、逆に進まなくなってしまいます。
【5 相性がいい学習環境】
このタイプの子どもは「AI × 個別」のハイブリッド型が最も合います。
・AI教材が弱点や処理速度の可視化をしてくれる
・個別指導で段取りと読解を整えられる
・担当者が毎日の負荷量を調整できる
逆に、
自習型→WMが保たず止まりやすい
集団塾→平均速度に合わせにくい
個別だけ→講師依存で質がぶれやすい
家庭教師→週1では定着しづらい
という特徴があります。
【6 1ヶ月で忘れてしまう理由】
忘れる理由は大きく二つです。
- 長期記憶に転送されていない
- 転送された記憶を取り出す練習が足りない
WMが弱い子は深い処理ができず、手順の記憶に偏るため「分かっていたのに1ヶ月後には消えている」という状態が起こりやすいです。
【7 忘れない子との違い】
忘れない子
→ A→B→C→Dと意味のネットワークが連結。状況が変わっても取り出せる。
忘れる子
→ A→B(手順のみ)で止まり、応用や時間経過に弱い。
【8 忘れにくくするための具体策】
① 意味づけ
なぜその手順なのか、どんな場面で使うのかを理解させる。
② 取り出し練習(リトリーバル)
翌週・翌々週・1ヶ月後に「見ずに再現」させる。
見返すだけの復習はほとんど定着しません。
【9 英語速読聴が特に合う】
・語彙が意味ネットワークとして蓄積
・短時間で大量の取り出し練習ができる
・WMの負荷を下げた状態で学べる
・処理速度の底上げにも効く
その結果、英語だけでなく数学・理科の忘れやすさにも良い影響が出ます。



