小学校では、掛け算は「一つ分の大きさ×いくつ分」という形で教えます。ここが、算数の最初の土台です。式は、ただ計算するための記号ではありません。どういう場面なのかを表すためのものとして扱われます。ですから、
a×b
は、「aがbこある」という意味で考えます。つまり、
a+a+a…(b回)
ということです。
たとえば、
3×4
は、「3が4こ」という意味です。ですから、
3+3+3+3
を表しています。4+4+4ではありません。
文章題でも、同じ考え方で式を立てます。
「3こ入りのふくろが4つあります」
という場面なら、式は3×4です。ここで3は一つ分の量、4はその数です。つまり、「一つ分の大きさ×いくつ分」という形になっています。
小学校で掛け算の順序をそろえるのは、このためです。答えを合わせるためではありません。式が何を表しているかを、はっきりさせるためです。式と言葉と意味とを、きちんと結びつけるために、順序をそろえているのです。
実際、このあたりがあいまいなまま先へ進むと、あとで困ることが出てきます。足し算は、順序を入れ替えても答えは同じです。ですから、表面には出にくいかもしれません。けれども、引き算や割り算はそうはいきません。
3−2 と 2−3
3÷2 と 2÷3
は、まったく別の意味になります。式の順序と意味とが結びついていないと、ここで混乱しやすくなります。
つまり、小学校で掛け算の順序を大事にするのは、細かな決まりを守らせるためではありません。式が場面を表している、という感覚を育てるためです。算数は計算の教科に見えますが、それだけではありません。式を言葉のように読んでいく教科でもあります。ここがしっかりしている子は、そのあとの算数や数学も安定しやすいです。反対に、ここがあいまいなままだと、中学に入ってから苦しくなることがあります。
実際に見ていると、同じ種類のつまずきは何度も出てきます。たとえば分数です。分数は、
上÷下
という意味をもっています。この関係があいまいだと、分子と分母の役割が頭の中で入れ替わりやすくなります。速さも同じです。「みはじ」の形で覚えていても、もともとは
速さ=距離÷時間、
「速さとは、単位時間当たりに進む距離」
という意味で分かっていないと、式だけを当てはめることになってしまいます。割合でも、「もとにする数」「くらべる数」「割合」の関係が言葉として整理できていないと、式は書けても、何をしているのかが分からなくなります。
こうした単元は、別々の内容のように見えますが、難しさのもとはよく似ています。計算そのものが難しいというより、式が何を表しているのかを読み取る力が要るのです。ですから、中学生であっても、分数の意味、速さの式、割合の「もとにする数」は、何度でも確かめ直してよいところです。ここが安定すると、そのあとの数学はかなり楽になります。
だからこそ、音読です。中学校で数学が苦しくなる子の中には、計算ができないというより、問題文を正確に読めていない子が少なくありません。声に出して読むと、「何が」「いくつ」「どうなっているか」が自然に整理されます。その結果、式と意味とがつながりやすくなります。宿題を増やす前に、まず読む力を育てること。毎日ほんの数分でもかまいません。教科書でも問題文でも、声に出して読む習慣をつくってみてください。算数の土台は、そこから少しずつ安定していきます。

