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いちばん上の子が、安心して失敗できるように――第一子を育てる親へ

2026 8/07
コラム・教育記事
2026年8月7日

保護者と話していると、こんな言葉を聞くことがある。

「下の子は放っておいても大丈夫でした。でも、上の子は難しくて」

家庭教師や塾講師として30年、子どもたちを見てきた。上の子についてこう聞かされるたびに、本当にその子だけが難しかったのだろうかと思う。

最初の子を育てていた頃、親にも余裕がなかったのではないか。下の子には笑って済ませたことを、上の子には厳しく注意していなかったか。

上の子が難しかった理由を、その子の性格だけで片づけるのは違うように思う。

いま第一子を育てている親にも、すでに成人した第一子を持つ親にも、振り返ってほしいことがある。

目次

親は、最初の子を育てながら子育てを覚える

最初の子が生まれたとき、親も親になったばかりだ。

いつ歩けば普通なのか。何歳で文字が読めればよいのか。どこまで手を貸し、いつまで待てばよいのか。初めてでは、加減がわからない。

少しでも遅れているように見えると心配になる。失敗しそうなら手を出したくなる。人に迷惑をかければ、「今のうちに直さなければ」と焦る。

どれも、子どものためを思ってしたことだろう。

しかし子どもからすれば、やることなすことに口を出されているようなものだ。

自分で靴を履こうとすれば、「左右が逆」。宿題を始めれば、「字が雑」。テストで九十点を取っても、「この一問は、どうして間違えたの」。

親は心配だから言う。子どもには、できなかったところばかり見られているように聞こえる。

親は、最初の子を育てながら子育てを覚えていく。その間、何度も口を出され、先回りされ、厳しく注意されるのは最初の子だ。

下の子を育てる頃には、親も変わっている

二人目、三人目を育てる頃になると、親も少し慣れてくる。

子どもは、言ってもすぐには動かない。成長の早さには差がある。一度や二度失敗しても、それで将来が決まるわけではない。親が少しくらい手を抜いても、子どもは育つ。

それがわかると、下の子が同じことをしても、「まあ、こんなものか」と待てる。

同じ親でも、上の子を育てていた頃と、下の子を育てる頃とでは違う。上の子のときには止めたことを、下の子にはやらせてみる。上の子には何度も言ったことを、下の子には一度言って様子を見る。

もちろん、どの家庭にも当てはまるわけではない。子どもの気質も、家族の事情もそれぞれ違う。発達特性や、学校での経験が関係している場合もある。

それでも私が見てきた中には、親が子育てに慣れていなかった頃に言われたことを、大きくなっても引きずっている第一子がいた。

「下の子は言わなくてもできた。上の子は何度言ってもできなかった」

親はそう振り返る。けれど実際には、何度も言われるうちに動けなくなった子もいた。

できないのではなく、失敗するのが怖い

宿題をなかなか始めない。間違いをひどく嫌がる。注意されると黙り込む。親が見ていると手が止まる。

こうした子は、わがまま、やる気がない、打たれ弱いと思われやすい。

だが、できないのではなく、できないところを親に見せるのが怖い場合もある。

宿題を始めれば、間違えるかもしれない。また何か言われるかもしれない。親をがっかりさせるかもしれない。それなら、初めからやらない。そのほうがましだと思ってしまう。

何を聞かれても黙る。追い詰められると、先に怒る。弟や妹に強く当たる。

反抗しているように見えても、実は不安で動けないのかもしれない。反抗だけを叱っていては、なぜ動けないのかがわからないままになる。

「ここまでできたね」だけで足りるのか

「早くして」ではなく、「ここまでできたね」と声をかける。できているところを先に認めれば、子どもが話を聞きやすくなるという。

たしかに、頭ごなしに叱るよりはよいだろう。言い方を変えただけで、動きやすくなる子もいる。

ただし、「ここまでできたね」の直後に、「じゃあ、早く続きをやろう」と言えば、子どもにはわかる。

子どもは、「認めてもらったのではない。続きをやらせるために言われただけだ」と受け取る。

言い方だけを覚えても足りない。親の思いどおりに動かそうとしていないか。できないところばかり見てこなかったか。大人の側がそこを考えなければ、言葉を変えても同じことを繰り返す。

悪気がなくても、つらかった記憶は残る

親は、子どもを苦しめようとして厳しくしたわけではない。

勉強で苦労してほしくない。人に迷惑をかけない子になってほしい。将来、困らない大人になってほしい。そう願っていたのだろう。

親に悪気はなかった。それでも、子どもはつらかったのかもしれない。片方を認めたからといって、もう片方を否定する必要はない。

子どもが昔の話を始めると、親は説明したくなる。

「あなたのためを思って言った」

「そんなに強く言ったつもりはない」

「弟や妹にも同じように言った」

親には親の言い分がある。しかし、ここで言い返せば、子どもは口を閉じる。

子どもが聞いてほしいのは、親の言い分ではない。自分があの頃どう感じていたのかだ。

親が覚えていなくても、子どもは覚えているかもしれない。「私は覚えていない」と「そんなことはなかった」は違う。

「そう感じていたんだね」

「あの頃は苦しかったんだね」

初めからうまく謝れなくても、子どもの話を否定せずに聞くことはできる。

親が喜ぶほうを選ぶ子、親が嫌がるほうを選ぶ子

私が見てきた家庭では、親が最初の子に多くを望んでいることがあった。

よい点を取れば喜ぶ。失敗すれば心配する。子どもは、そんな親の顔をよく見ている。

親を安心させようとする子は、自分が何をしたいかより、「どうすれば親が喜ぶか」を先に考えるようになる。

テストの点が悪かったことより、それを親に見せることのほうが怖い。部活をやめたいことより、親をがっかりさせることのほうが怖い。自分の希望を言うことより、家の空気が悪くなることのほうが怖い。

周りからは、まじめで、しっかりしていて、手のかからない子に見える。けれど本人は、親が喜ぶ答えを探すうちに、自分が何をしたいのかわからなくなっていく。

反対に、親が勧めるものを嫌がる子もいる。

「勉強しなさい」と言われるほど勉強しない。親が勧めるものほど避けたくなる。親に決められるくらいなら、反対のほうを選びたくなる。

本人が意識しているとは限らない。それでも、親が喜ぶほうを選ぶ子と同じように、親の反応を気にして決めているように見える。

一方は親が喜ぶほうを選び、もう一方は親が嫌がるほうを選ぶ。正反対に見えても、どちらも「自分はどうしたいのか」だけで決めているわけではない。

進路を決める年齢になって、「好きなものを選んでいい」と言われても困ってしまう。

親が喜ぶものを選べばよいのか。親が嫌がるものを選べば、自分らしいと言えるのか。その二つしか知らなければ、自分が本当に望んでいるものは、なかなか見つからない。

親を基準に決める癖は、大人になったからといって、すぐに抜けるものではない。

まず、言い返さずに聞く

子どもが昔のことを話したら、まず最後まで聞く。親の事情を説明するのは、そのあとでいい。

謝るのであれば、「いろいろ悪かった」で済ませず、何について謝るのかを伝える。

「お兄ちゃんだから我慢しなさいと、何度も言ったのは悪かった」

「あなたが何かを始める前に、いつも口を出していた」

「九十点を取っても、間違えた一問のことばかり言っていた」

具体的に話したほうが、何について謝っているのかは伝わりやすい。

そして、返事を急がせない。謝ったから、すぐに許してもらえるとは限らない。それまで何度も言い返してきた親が、一度謝っただけで信用されるとも限らない。

言い返さずに聞く。前のように先回りしない。そうした接し方を続けるうちに、親の本気も少しずつ伝わっていくのだと思う。

第一子でいなくてもよい場所

塾では、家でしっかりしている第一子が、年齢より幼く見えることがある。

同じことを何度も聞く。「できない」と言う。勉強とは関係のない話をいつまでも続ける。手を止めて、こちらの様子を見る。

甘えているようにも見える。

だが、家では「しっかりした上の子」でいなければならない。その役を、塾にいる間だけ休んでいるように見えるときがある。

弟や妹の見本にならなくていい。親を安心させなくていい。わからないときには、わからないと言っていい。

塾で勉強を教えるだけなら、答えと解き方を伝えれば済む。

失敗を怖がっている子には、それだけでは足りない。間違えても叱られなかった。わからないと言っても見放されなかった。そんな時間を何度も過ごすうちに、自分から手を動かすようになった子もいる。

もちろん、第一子だから必ず苦しむとは言えない。上の子らしく見える行動が、すべて親の育て方によるとも限らない。

それでも、「この子はもともと難しい」と決める前に、上の子を育てていた頃の自分に余裕があったか、親にも考えてほしい。

不安になるあまり、細かなことまで口を出していなかったか。失敗する前に、先回りして止めていなかったか。下の子には許したことを、上の子にだけ厳しく言っていなかったか。

今から「早くして」を「ここまでできたね」に変えるのもよい。

その前に、子どもがあの頃どう感じていたのかを聞いてほしい。言い返さずに聞く。すぐに動かそうとせず、待つ。

いちばん上の子が安心して失敗できるように、まず親が話を聞くところから始めてみてはどうだろう。

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この記事を書いた人

川上晃のアバター 川上晃 代表

 個別塾fabstudy代表。家庭教師・個別指導の現場で30年超。家庭教師派遣会社で上位認定を受け「スーパー」「プロ講師」、中学受験担当の家庭教師などを務めた。
 小学生から高校生まで、基礎・補習・テスト対策・高校入試・大学入試まで幅広く対応。これまでの生徒には高校の評定平均4.9到達という子もいるが、数学赤点から青山学院大学合格、3浪目で私立大学医学部合格など、厳しい状況から進路につながった例もある。
 指導で重視しているのは目の前の問題を解かせることだけではない。なぜ手が止まっているのか。どこに戻れば動き出すのか。どの量なら続けられるのか。学習が進まない原因を見極め、今取り組む内容・戻る場所・進める量を決めていく。
 基礎からやり直したい生徒にも、定期テストで得点を上げたい生徒にも、受験に合格したい生徒にも、今の状態から次に進むための道筋を具体的に作っていく。

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